ちょっと真面目に、分子化学の先生にお訊きしました!

食べることを見直すことが、健康への第一歩!

 乳がんの原因は、遺伝的要因を除くと「よくわからない」というのが一般的な見解です。 本書『乳がんと診断されたらすぐに読みたい本』のアンケートによると、大部分の人が、その原因を「ストレス」と回答しています。

 もちろん、ストレスもたいへん重要な鍵ではあるのですが、「ちょっと待って! 皆さんの食生活に原因があるのかもしれませんよ」とおっしゃる分子化学の専門家に、生活習慣と食べものとの関係について教えていただきました。
Text by 後藤日出夫(分子化学療法研究所)

※本項は後藤先生独自の見解です。本書『乳がんと診断されたらすぐに読みたい本』の内容や関係者のご意見とは必ずしも一致するものではないことをお断りしておきます。(注:編集部)



乳がんの原因って何?

 はじめにお断りしておきますが、本項は分子化学を専門とする私の見解です。専門医の先生方の考えとは違う部分があるかもしれません。「こういう考えもあるかもね」というくらいの気持ちでお読みくださって結構です。では、はじめましょう。

 人体の生命活動を、より小さな”分子”の化学反応として見てみると、一般的に原因不明とされている乳がんは、乳管上皮細胞に何らかの発がん物質が集積し、その発がん物質やエストロゲン(女性ホルモン)の作用によって遺伝子に狂いが生じることから始まる病気だと捉えることができます。エストロゲンは、がん化を促進する働きもします。

 初期の乳がんでは、がん細胞がエストロゲンと結合して、がん増殖因子を作ります。ですから、エストロゲンは乳がん最大の発症要因といってもいいでしょう。ただし、臨床的にしこりとして触れることができたり、リンパ節転移や血行性転移をきたすような段階まで進行したりすると、がん細胞はエストロゲンなしでも自己増殖ができるようになります。

 いずれにしても、エストロゲンにさらされる機会が多くなればなるほど、乳がんは発症しやすくなる。初潮年齢が早い場合や、閉経年齢が遅い場合に乳がん発症の可能性が高まるといわれているのも、これが理由だと考えられます。ちなみに、非常に早い時期に卵巣摘出手術をせざるを得なかった女性の場合、乳がん発症率は男性と同程度にまで低下するといわれています。

 また、一般女性であっても血中のエストロゲン濃度が低くなる閉経前後には、乳がんの発症率が高まる傾向にあります。これは、閉経前後になると、脂肪組織にある「アロマターゼ」という酵素が、「アンドロゲン」(男性ホルモン。副腎で作られる)をがん組織の局所で「エストロゲン」に転換するためです。乳がん患者のがん組織中のエストロゲン濃度は、血中の10倍~100倍以上にもなるといわれています。50歳前後で乳がんの発症率が高まる理由、閉経後の肥満が乳がんリスクを高めるのはこれが原因です。

 さらに、過剰なコレステロールが乳がんの進行や転移を早めることも明らかになっています。コレステロール代謝時に、エストロゲンに似た物質が生成されるためです。

 こうした「理由」がわかったところで、「乳がんと診断されたら」どうすることもできません。しかし、がんの転移が気になる方の予防のため、あるいはご家族や知り合いの若い女性たちへ有効なアドバイスができるよう、本項では日々皆さんが口にする「食べもの」を中心にお話していくことにします。



乳がんの引き金となる発がん物質とは何か?

「乳がんは、乳管上皮細胞に何らかの発がん物質が集積し……」、と最初に書きました。では、「発がん物質」とは何でしょう? それはどのようにして体内に取り込まれるのでしょう?

 遺伝子に狂いを生じさせるものとして、皆さんはすぐに放射能やX線、紫外線などの電磁波を思い浮かべるかもしれませんね。しかし、これらは乳がんに対する直接的な発症要因とはならないと考えられます。乳がんをはじめ、体内でがんを発症させる直接的な発がん物質とは何か? もっとも可能性が高いものは、何といっても「食べもの」に含まれています。発がん性環境汚染物質であるダイオキシン類、PCB、DDTなど塩素系農薬、排気ガス、食肉・魚などのコゲや燻製(くんせい)に含まれるベンゾピレンなどの多環芳香族炭化水素(PAHs)やヘテロサイクリックアミン(HCA)などです。

「そんなもの食べているはずありません!」

 そうおっしゃるあなた、ちょっと待ってくださいね。実際には、気づかないうちに口にしているかもしれないのです。それについては、のちほどご説明します。

 これらの有害化学物質が体内に取り込まれると、それら自身の発がん性もさることながら、有害物質を分解するために働く酵素(チトクロムP450)のリスクも発生します。これによってもがん化が引き起こされてしまうのです。また、これらの発がん物質はいずれも体内で蓄積される性質があります。なかでも、ダイオキシン類の生物学的半減期は7.5年と長いため、体に取り込まれると加齢とともにその蓄積量を増していきます。

 これらの発がん物質は脂肪組織に溶け込んでいて、通常は皮脂等から、わずかしか体外に排出されません。ところが、妊娠時には胎盤を通じて、また授乳時には母乳の脂肪分とともに大量に胎児や乳児へと移行します。厚生労働省の公表データによれば、生まれてくる新生児の6.7%は、すでにダイオキシン類の影響と思われる「アトピー性疾患」に罹患しており、さらに母乳哺育だと12ヵ月後には7.9%まで増加し、人工乳哺育では5.5%まで減少することが示されています。つまり、妊娠時にはすでに胎児に影響を与えるレベルのダイオキシン類が母体に蓄積されているということ。お母さんはそれを新生児・乳児に無意識のうちに与えていると考えられるのです。

 このことから、妊娠・出産経験があり、授乳経験・長期授乳の場合に乳がんの発症率が低下する理由もわかるのではないでしょうか。発生原因であるダイオキシン類が体内から減少したからリスクが軽減されたのです。妊娠・出産後に母親は美しく健康になり、子どもはアトピー性疾患で悩んでいる――そんな状況にはこのような原因があったというわけです。

あなたも有害物質を知らないうちに食べている!?

 動物実験によると、母ねずみにダイオキシンを投与して子宮内でダイオキシンに被曝させた雌ねずみは、健康なねずみよりも乳がんを発症しやすいという報告があり、そのメカニズムも解き明かされています。このように、蓄積性のある発がん物質が体脂肪に年々蓄積されていき、そこにエストロゲンの作用が加わることで発症するのが乳がんであると私は考えています。

 ところで、ダイオキシン類の人体への取り込みは、かつては焼却炉からの排煙が大きな問題となっていました。しかし、今日ではそのほとんどが魚介類からの摂取と考えられています。特にタチウオやアナゴなどの水底生息魚、食物連鎖の上位にいるブリやマグロなどの大型魚類にダイオキシン類は多く含まれています。

 ダイオキシン類は脂溶性が高く、化学的に安定しているため、脂身や内臓、皮などの部位に多く蓄積されます。マグロなら、皆さんの大好きなトロに一番たくさん含まれています。だから食べるなら赤身がお勧めです。その他には、あん肝、イカワタからは特に多くのダイオキシン類が検出されています。

 また、肉・魚類のコゲに含まれるベンゾピレン(PAHsの一種)は非常にも強い発がん性があり、バーベキューが好きな方や燻製などをとる機会が多い人は注意が必要です。

 これら以外の発がん物質としては、お米や内海の魚介類(貝類・カニ・頭足類の内臓は特に多い)に含まれるカドミウム(摂取後30年体内に蓄積される)、ヒジキや玄米に含まれる無機ヒ素、大型魚類に含まれるメチル水銀、ウインナー・ハムなどの添加剤や漬物に含まれる亜硝酸塩(第2級アミンと反応して発がん性ニトロソアミンを生成)、残留農薬に含まれる塩素系&有機リン系農薬などがあります。

 さらに、飲料水中の汚染物質(塩素系消毒剤、ドライクリーニング廃液など)やカビ毒(アフラトキシンなど)、タール系着色剤なども、がんを引き起こす可能性のある物質として危惧されます。

 これらは通常、知らず知らずのうちに食事を通して体内に取り込まれているから厄介です。しなしながら、それが話題となることは少ないように思います。厚生労働省等からはこれらのデータが公開されてはいるものの、国民に対して啓蒙されることはほとんどありません。おそらく、ほとんどの方がこうした事実を知らないまま、発がん物質を含む食品を召しあがっているのではないかと思います。

*詳しくは、拙著『お医者さんにも読ませたい「片頭痛の治し方」』(健康ジャーナル社)にわかりやすく書かれています。発がん物質についてもっと専門的に知りたい方は、『アレルギー・炎症体質の真実』(理工図書)をご参照ください。

 食べものの最後に、「飲酒」と「喫煙」にも触れておきましょう。
「飲酒」については、アルコール自体の毒性は少ないのですが、体内で代謝される際に「アセトアルデヒド」という有害な中間物質が生成します。これは「活性酸素」を発生させ、遺伝子を傷つけることがわかっています。アルコール飲料の中には、猛毒の「ホルムアルデヒド」を生成するメチルアルコールを極微量含むものもあります(一部のワインなど)。

 アルコールは10グラムとるごとにがん発症のリスクが9%上がるといわれています。くれぐれも飲み過ぎには気をつけてください。また、同じようなメカニズムとして、天ぷら油などに含まれるリノール酸も、加熱によってヒドロキシノネナールというアルデヒドを生成し活性酸素を発生させます。特にアルコールに弱い方はアルデヒドの代謝も悪く、微量であっても長時間曝露されることになります。くれぐれも「エコ」などといって、古い油を何度も使い回さないように気をつけてください。

 なお、たばこの煙には微量ですが、発がん性の強い多環芳香族炭化水素(PAHs)やカドミウムが含まれ、紫煙にはダイオキシン類も含まれます。肺がんはもちろん、乳がんにとっても発症原因となります。自分自身の喫煙もさることながら、受動喫煙の危険性についても気を配ってください。



ストレスがなぜ乳がんに関わるのか?

 「乳がんの一番の原因はストレス」と考えていらっしゃる方が多いようですね。強い精神的ストレスを受けると、私たちの体内では副腎皮質ホルモンが分泌され、神経伝達物質である脳内セロトニンの伝達量を高めてストレスを軽減しようとします。しかし、強いストレスが長く続くと、脳内セロトニン量が減少し、よりストレスの影響を受けやすくなり、さらに脳内セロトニンの量が少なくなるという悪循環に陥ります。

 副腎皮質ホルモンはストレスを解消する効果とは別に、自己免疫疾患の特効薬として用いられるように、これが減少すると免疫系を弱めることになり、その結果がん細胞を攻撃するマクロファージやNK細胞までも弱めることになります。こうして、ストレスによりがん化が促進されるわけです。また、脳内セロトニンの不足は低体温症を引き起こし、低体温はがん細胞を勢いつけさせる結果にもなります。

 さらに、脳内セロトニンの不足は、エネルギーを作りだす「ミトコンドリア」の活性も低下させるため、がん細胞のアポトーシス(自然死)を阻害することにつながります。逆にいうと、ミトコンドリアの活性を高めることにより、がん細胞を死滅させることができます。

 また強い精神的ストレスは、ミネラルの中でもマグネシウムをより多く消費します。マグネシウムはミトコンドリアの活性に深くかかわっているため、この影響も無視できません。こういった点からも、がんを克服するには“精神的ストレスを受けないこと”がたいへん重要なのですが、それが容易にできないのが“精神的ストレス”というシロモノです。

 しかし、脳内セロトニンを増やすことにより、ストレスを感じにくくすることは可能です。脳内セロトニンを増やすには、米、野菜類、魚など、脳内セロトニンの原料となる「トリプトファン」の含有比率の高い食品をとり、牛乳・乳製品、肉、小麦・とうもろこし製品といった、トリプトファン比率の低い食品を極力控えることが大切です。さらには、適度な運動と筋肉をつけること(無理なダイエットで筋肉を落とさない)、マグネシウム不足をなくすことなどによって精神的ストレスに強い体質を作り上げることが可能となります。

根本原因は「錆び体質」にあり!

 これまで見てきたように、乳がんはおもに食事とともに体内に取り込まれる発がん物質と、女性特有のエストロゲンの影響、およびストレス等に起因する免疫力の低下によって生じる病気だというのが私の意見です。しかし、同じような生活環境、同じような食生活をしているのに、乳がんを発症する人とそうでない人がいることも事実です。なぜこのような違いが生じるのでしょうか? その背景には、間違った生活習慣から導かれる「酸化ストレス・炎症体質」があるのです。

 「酸化ストレス・炎症体質」とは、「活性酸素」が除去しきれないほど発生してしまう状態のことで、これがもとで細胞が傷つけられ、さまざまな病気(炎症)を引き起こします。俗に、ボロボロに錆びた金属にたとえられ「錆び体質」などといわれています。エイジング(老化)の原因でもありますね。

 この「酸化ストレス・炎症体質」は、がん発症の原因となるばかりでなく、ほとんどの現代人が抱える生活習慣病や、さまざまな慢性病の源となっています。これは長い間、間違った生活習慣(食事、運動不足)を続けることによって起こります。特効薬を飲んだからといって、すぐに治るようなものではありません。しかし、「酸化ストレス・炎症体質」に至るまでのプロセス上にある誘発因子(誘因)を、一つひとつ取り除いていけば、健全な状態に戻すことは充分に可能です。そのためには、次のような問題を解消する必要があります。

①食事に含まれる危険な有害物質をとらない
②乱れた腸内環境を整える
③体毒の発生と解毒能力不足を解消する
④炎症体質をつくる生理活性物質のバランスの乱れを正す

 これらの根本原因を解決しないかぎり、「酸化ストレス・炎症体質」を改善することはできません。逆にいうと、これらを改善することができれば、がんのみならず、アレルギー疾患、片頭痛、糖尿病、アルツハイマー病……といった生活習慣病を治すことも可能なのです。

 繰り返しますが、5%~10%程度といわれる遺伝的要因(BRCA1など)による乳がんの場合を除けば、そのほとんどが、いままでご説明してきた「食生活を中心とした生活習慣」に原因があるといってもいいのではないかと私は考えています。



私たちにできることは何か?

「大豆製品をとるとエストロゲンの作用を弱めることから乳がんの予防にいい」
「赤ワインに含まれるレスベラトールには抗がん作用があり、炎症体質の改善効果がある」

 よくこのような記述を見ることがあります。これらはいずれも事実ではありますが、だからといって、これらをせっせと実践すれば乳がんが良くなるのかといえば、決してそんなことはありません。日頃からとり続けている方の乳がん発症率が、わずかではあるが減少傾向を見せる、というだけのことでしょう。

 上に挙げた大豆製品や赤ワインのように、これまでの食生活に”プラス”して「何をとればよいのか?」を考える前に、これまでの食生活自体を見直し、「何をとってはいけないのか?」を正確に知ることのほうが、本来はずっと大事なのです。私の経験上、多くの病気の原因に「食べること」がかかわっています。自身の生活習慣の間違いを正しく認識し、それらを一つひとつ改善することで、人(生き物)が本来持っている治癒のメカニズム(生命力)を高めることができる――それがとても大切だと私は思います。

 最後になりますが、拙著『お医者さんにも読ませたい「片頭痛の治し方」』、『病院治療で糖尿病がよくならない本当の理由』(いずれも健康ジャーナル社刊)には、生活習慣を正す改善方法をわかりやすく記述しています。よかったらぜひ参考にしてみてください。



後藤先生プロフィール

1946年福岡県生まれ。山口県宇部市在住。工学博士。分子化学療法研究所所長。米国ボルグワーナーケミカル社中央研究所、R.S.インガソール研究所、ゼネラルエレクトリック社中央研究所などで高分子ポリマーの合成やレオロジーの研究に従事。独自の疾病体質改善食事療法により、数十年におよぶ疾患(各種の生活習慣病)のすべてを完治させた。著書に『アレルギー・炎症体質の真実』(理工図書)、『お医者さんにも読ませたい「片頭痛の治し方」』、『病院治療で糖尿病がよくならない本当の理由』(健康ジャーナル社)がある。
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