世界デトックス紀行
デトックスブームが続いている今、単なる「デトックス=毒素を出す美容健康法」という流れがちょっと心配、という旅行ジャーナリストの木谷朋子さん。世界各地を旅してきた旅のプロならではの視点で、さまざまなデトックス体験、健康・美容体験を世界各国の健康事情とともにお届けします。世界的な有名スパから気軽に行ける癒しスポットまで、ヘルシー美容&料理情報なども交えてご紹介します。
 

木谷朋子
PHOTO(映画):角川映画

第48回 映画『ミス・ポター』と湖水地方

◆ 映画『ミス・ポター』が9月15日に公開!

第43回で、映画『ミス・ポター』の主人公ビアトリクス・ポターとイギリスの湖水地方のことをご紹介しましたが、いよいよ『ミス・ポター』がこの週末9月15日に公開されます。最近、地下鉄のポスターやテレビコマーシャルでもたびたび見かけるようになったので、すでにご存知の方も多いでしょう。私の周囲のイギリス好きな人たちは、公開を心待ちにしているようです。

これまでネタばれ等もあるかと思い、映画の内容についてはあまり語らなかった私ですが、公開直前となったので、もう少し踏み込んでビアトリクス・ポターのことをご紹介しようと思います。デトックスとは少し離れた内容となってしまいますが、ご容赦くださいね。

◆ ビアトリクス・ポターの知られざる一面

日本では、ビアトリクス・ポター(1866〜1943年)と言っても、知らない人の方が多いかもしれません。ピーターラビットの作者として世界的に有名となった絵本作家ですが、後年は自然保護活動にも力を尽くした力強い女性です。

実際の彼女はとても恥ずかしがりやな女性だったそうですが、気が弱くて何もできなかったわけではなく、絵の才能に秀で、芯の強さをもち、自分の思いを通すためにはものすごく頑張る努力家でもありました。

ポターの父ルパートは法廷弁護士でしたが、一生涯働かなくてもいい財産家でもあったため、趣味を楽しむ優雅な人生を送る父の元には、毎日のように上流階級の人々や芸術家たちが出入りしていたといいます。

そんな文化的にも金銭的にも何一つ不自由ない生活をしていた幼少時のポターですが、その絵の才能は幼少時から秀でたものがあり、大人以上のテクニックで動物や植物を数多く描いていました。また、大人になってから出したキノコの研究論文は、現在は専門家レベルの内容と評価されているものの、当時は、女性という理由だけでその論文が抹消されるなど、いわれのない差別も受けています。

また、今では当たり前の著作権に関する取り決めや、自分の絵の中の動物を使ったキャラクタービジネスにおいても、いち早く商標登録をして管理をきちんとしていたのは、あの時代ポターだけです。

女性というだけで差別された時代。しかも裕福な中産階級の出身だったために、「なぜ働くの?」という両親や周囲からの非難やプレッシャーを受けながら成功を勝ち取ったポターの生き方は、女性だけでなく、さまざまな人に勇気を与えてくれる内容だと感じます。お金を稼いだだけでなく、それを湖水地方のために全額寄付してしまうなど、莫大な財産を得ながらもお金に執着しなかったところなど、なかなか真似できる生き方ではありません。

◆ 湖水地方の自然も見どころの一つ

今回の映画では、レニー・ゼルウィガー演じるポターが、処女作「ピーターラビットのおはなし」をロンドンの出版社に売り込みに行く場面から始まります。物語のメインは、このポターと、ユアン・マクレガー演じる編集者のノーマン・ウォーンの恋愛物語。ポターが描いた絵本の中の動物たちや、彼女が愛した湖水地方の風景などもたくさん登場します。

映画では、湖水地方のほか、ロンドン、マン島、セトル〜カーライル鉄道など、さまざまな場所で撮影が行われています。5月に私が湖水地方へ行ったのも、この映画の公開が控えていたからなのですが、取材では、映画のロケ地となった場所の一部と、ポターゆかりの場所を訪ねました。

特に印象的だったのは、映画の最初とラストシーンに出てくる湖「ロウズウォーター」とポターの家「ヒル・トップ」として描かれた「ユー・トゥリー・ファーム」です。映画撮影は人の多い場所ではできませんから、実際の「ヒル・トップ」での撮影を断念し、似たような外観をもつ農場で、撮影しやすそうな場所が選ばれたという経緯があります。

また、以前も「湖水地方はウォーキングのメッカ」と書きましたが、映画でも湖畔や湖沿いのフットパス(歩行者専用の道のこと)を歩くポターの姿がしばしば登場します。

その名の通り湖の多い湖水地方ですが、一番大きい「ウィンダミア湖」はさすがに撮影では使えなかったようで、前述した「ロウズウォーター」や「ターン・ハウズ」、「ラフリグ・ターン」など、あまり旅行者が多くない小さな湖が選ばれています。その湖沿いにもフットパスがあり、ここでも撮影が敢行されていますが、この周辺は、美しい景色を眺めながら歩けるウォーキング・コースとしてとても人気があります。

◆ ウォーキング王国イギリスのウォーキング事情

ロンドン出身のお嬢様であるにもかかわらず、ポターは相当な健脚の持ち主だったようです。創作活動や農場の作業の合間に散歩と称し、湖水地方の湖畔のフットパスや山野を毎日のように歩いていました。

ポター以前の時代には、桂冠詩人として有名なウィリアム・ワーズワース(1770〜1850年)が湖水地方に住んでいましたが、彼もまた相当健脚な人でした。

往復40キロ近い距離を頻繁に往復するなど、馬車も使わずひたすらよく歩いたという逸話が残っています。ワーズワースは、そのウォーキングの途中に詩作のヒントを得ていたようで、歩くことで目の前に広がる美しい風景を題材に詩を書き、脳を活性化させていたのかもしれません。

今でもイギリスではウォーキングが非常に盛んです。現在イングランドには約17万km。ウェールズには約5万5,000qのウォーキング道が整備されているのですが、「ウォーキングは健康のため」といった印象の強い日本人と違い、イギリス人にとって「ウォーキングは自然の美しさをじっくり楽しむため」といったゆるい感じが印象的です。歩くことがレジャーであり、楽しみというイギリス人の歩き方は、ぜひ見習いたい一面でしょう。湖水地方には現在たくさんのウォーキング・コースが整備されており、初心者から中級、上級者まで、さまざまなレベルの人が歩くことを楽しんでいます。

まずは、この機会に『ミス・ポター』を見て、ぜひ一度湖水地方を訪れてみてください。ポターやワーズワースなど、数多くの文学者が愛した美しい景色は、見るものを癒す大きな力をもっていますが、それと同時に、ポターの描いた物語の中の絵とまったく同じ風景が点在していることが大きな魅力です。一度失った自然や風景は二度と戻りませんが、保存することで永遠の風景を未来に遺したポターの湖水地方への愛をぜひ感じて欲しいと思います。【2007年9月12日】


ロケ地については、ここで細かく書きませんでしたが、ロケ地の場所とポターゆかりの場所を紹介する「ムービーマップ」を英国政府観光庁で配布していますので、ウェブサイト(http://www.visitbritain.jp/)からオンラインで請求(送料のみ着払い)してみてください。


【お知らせ】
9月21日にイベント講座「映画『ミス・ポター』と湖水地方」を開催!

 来たる9月21日、銀座のリプトン・ブルックボンドハウスで、映画『ミス・ポター』やロケ地のこと、ビアトリクス・ポターゆかりの場所の話、湖水地方のみどころや、美味スポット、旅行の方法などについて、お話することになりました。
  通常、講演はブルックボンドハウスの会員向けですが、このイベントに関しては、会員以外の方の参加できますので、ご興味ある方はぜひいらしてください。紅茶を飲みながら楽しくお話をしたいと私自身も楽しみにしています。
  当日は、映画「ミス・ポター」の予告編上映や湖水地方の景色を紹介するDVDの上映、写真でのロケ地紹介のほか、映画のロケ地マップや湖水地方のパンフレット配布なども行います。
お申し込みは以下まで。

日 時 9月21日(金)
10:30〜12:00  14:00〜15:30  18:30〜20:00
会 場 銀座 リプトン・ブルックボンドハウス
講 師 木谷朋子(旅行ジャーナリスト)
参加費 5,250円
申し込み先 リプトン・ブルックボンドハウス
http://www.brookebondhouse.com
TEL:03-3535-1105 FAX 03-3535-1107 (平日・土曜の10:00〜19:00)
 



主人公ビアトリクス・ポターを演じたレニー・ゼルウィガー (C) 角川映画



北湖水地方のダーウェント・ウォーターでのシーン (C) 角川映画



ヒル・トップ農場として撮影されたユー・トゥリー・ファーム (C) 角川映画



撮影後のユー・トゥリー・ファーム



最初は絵をモノクロにしてコストを安くおさえることを提案したポターに対し、担当編集者のノーマン・ウォ―ンは、絵をカラーにすることを主張。写真右はノーマンを演じたユアン・マクレガー (C) 角川映画



本物のヒル・トップ農場。ポターファンの聖地であり、この農場のあるニア・ソーリー村には絵本の中の風景がたくさんでてきます



タウンエンド近くの丘から眺めたウィンダミア湖



ラストシーンが撮影されたロウズウォーター

第40回以前のコラムはこちら
第41回 イギリスの温泉町 PART-6 ハロゲイトのターキッシュ・バス その2
第42回 イギリスの温泉町 PART-7 ハロゲイトのターキッシュ・バス その3
第43回 映画『ミス・ポター』のロケ地「湖水地方」で見つけた湖畔のスパ・ホテル
第44回 ハワイの名門ホテル「ザ・カハラ・ホテル&リゾート」
第45回 「ザ・カハラ・ホテル&リゾート」のスパ・スイート
第46回 スピリチュアル・アイランド ハワイの大自然に宿る神秘
第47回 スピリチュアル・アイランド ハワイのスピリチュアル・スポット
第48回 映画『ミス・ポター』と湖水地方
第49回 日帰りで行けるシティ・スパ「テルムマラン ヨコハマ ベイ」 PART1
第50回 日帰りで行けるシティ・スパ「テルムマラン ヨコハマ ベイ」 PART2
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