信用を失う食品業界!今一度確認しておきたいトランス脂肪酸の危険な話。

Text by 後藤日出夫

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アメリカで禁止されたトランス脂肪酸が、なぜ日本では禁止されないのか!?

トランス脂肪酸の使用を減らすことで年に7,000人の死者と最大2万件の心臓発作を回避できる可能性がある。

健康に重大な影響を及ぼすとされる「トランス脂肪酸」。このトランス脂肪酸の食品への使用を全面的に禁止する方針が、米食品医薬品局(FDA)からこのほど発表されました(米国時間11月8日)。
米国ではすでに2006年から、トランス脂肪酸の含有量表示が義務化されていました。しかし、食の安全を管理監督するFDAの対応が遅く、これにしびれを切らした形でニューヨーク市やカリフォルニア州などのいくつかの自治体が独自の規制策を施行してきました。このことはご存知の方もいらっしゃることでしょう。
FDAも当然その有害性は充分に認識していて、事実、トランス脂肪酸の使用を減らすことで年に7,000人の死者と最大2万件の心臓発作を回避できる可能性があると指摘しています。
しかし、トランス脂肪酸はあまりにも多くの食品に使用されていることから、規制が与える経済的なダメージと影響を恐れたのでしょう。
とはいえ、将来の方向性――いずれは禁止となる――はすでに明確に示されていましたから、食品への添加を控えるなど、多くの企業が自主的に改善する方向で動きだしていました。たとえば、マクドナルドなどの大手食品店チェーンは、トランス脂肪酸が心臓病につながる恐れのある食材であることから、その使用をすでに取りやめていました。こうした下地ができつつあることもあり、この段階での発表による経済的打撃は最小限にとどめることができるという判断を下したのではないかと考えています。

さて、ひるがえってわが国はどうでしょう?
“対岸の火事”的な対応しかとらない日本は、先進国の中でも稀有な存在だといえそうです。「国民の健康より経済が大事」とでも考えているのでしょう。

後藤日出夫 プロフィール

1946年福岡県生まれ。山口県宇部市在住。工学博士、分子化学療法研究所代表。
米国ボルグワーナーケミカル社中央研究所、R.S.インガソール研究所、ゼネラルエレクトリック社中央研究所などにて、高分子ポリマーの合成やレオロジーの研究に従事。1973年の渡米以降、体重が2年間で約30kg増加、BMI:27.5の過体重体型となり、糖尿、高脂血症、脂肪肝、高コレステロール血症、高血圧、花粉症、アレルギー性鼻炎、胃炎、十二指腸潰瘍、睡眠時無呼吸症候群、不整脈、逆流性食道炎など多くの生活習慣病を発症、長く薬漬けに。 米国最新医療をもとに、各疾患の発症原因とメカニズム、治療方法を分子レベルの化学反応として捉える調査研究の結果、“食の恐ろしさと重要性”を痛感、試行錯誤の末、独自の疾病体質改善食事療法にたどり着き、数十年におよぶ疾患のすべてを完治させた。 この自己体験に基づき、多くの人へ実践の輪を広げ、また指導できる仲間の育成を目的に「分子化学療法研究所」を発足。多くの人が健康で楽しい人生を全うし、それを支える健全で安全な社会環境を築くべく日夜奮闘中。著作には『医者は口にできない 病院治療で糖尿病がよくならない本当の理由』『お医者さんにも読ませたい「片頭痛の治し方」』(健康ジャーナル社)のほかに『アレルギー・炎症誘発体質の真実』(理工図書)がある。


先進各国では常識、トランス脂肪酸に対する対策

国民が精製加工された植物油の危険性について知らされているという点が日本との大きな違いだと思います。

先進各国のトランス脂肪酸に対する対策を見てみると、政治的・経済的観点から大きく2つのグループに分けることができそうです。
1つは、米国を中心とする「遺伝子組み換え食品にポジティブ(前向き)な国」であり、韓国や中国などが挙げられます。 少々専門的になりますが、米国を中心とする遺伝子組み換え作物の栽培・消費を積極的に進めている国では、遺伝子を組み換えることによって、大豆や菜種油からリノール酸を減らし、オレイン酸を増やすことができます。これによりトランス脂肪酸量を減らすのです(リノール酸はオレイン酸に比べてトランス脂肪酸の生成量が多い)。つまり、トランス脂肪酸の使用を規制してもある程度の低減が可能だということです。

もう1つはEU(および英国)や日本のように「遺伝子組み換え食品にネガティブ(後ろ向き)な国」です。
これらの国は、食糧の米国一極支配を恐れており――遺伝子組み換え作物の種子はすべて米国企業がおさえている――したがって、EUや日本はそうした種子や油の輸入自体を制限しています。しかし現在の大量生産の技術では、遺伝子組み換え作物を使う以外にトランス脂肪酸を低減するよい方法はまだありません。
さらに、酪農が盛んな国(デンマーク、スイス、オーストリアなど)では、植物油を使わなくても乳製品からの脂肪酸(バターなど)でよいと考えているようですし、農業の盛んな国では、昔ながらのオリーブ油や圧搾法の植物油で充分というスタンスのようです。
その代表格のフランスでは、精製・加工植物油の消費量が少なく、また原材料名のなかに「トランス脂肪酸」の表示がなくても、「水素添加油」の表示があればそこにはトランス脂肪酸が含まれると判断できるとしており、さらに人工的トランス脂肪酸を含むいくつかの食品を開示して摂取量を減らすことを勧めています。
つまり、国民が精製加工された植物油の危険性について知らされているという点が日本との大きな違いだと思います。 *各国のトランス脂肪酸対策はこちら

国内に流通している食品のトランス脂肪酸含有量

食品名 試料数 平均値
ショートニング 10 13.6
マーガリン,ファットスプレッド 34 7.00
ラード,牛脂 4 1.37
食用調合油等 22 1.40
ビスケット類 29 1.80
マヨネーズ 9 1.24
バター 13 1.95

遅すぎる、日本のトランス脂肪酸対策

「特保」に認定されていた「エコナ」は、トランス脂肪酸とグリシードル脂肪酸エステルの両方の問題を抱えた植物油だったということをご存知の方はほとんどいないのではないでしょうか。

トランス脂肪酸は、昔ながらの低温圧搾方法でつくられた天然の植物油にはほとんど含まれない物質です。トランス脂肪酸は工業的に精製・加工するときに産生する物質で、大量生産を必要とする多くの植物油がこうした製法に頼っています。 また、水素を添加して製造する過程で発生し、マーガリンやファットスプレッド、ショートニングなどにはかなりの量が含まれています。これらを用いてつくられるスナック類やお菓子などにもたっぷり含まれていることになります。 残念ながら、工業的に健康で安全な製品をつくる完全な技術は現段階では存在しません。ですが――、

①植物油の組成を変えてトランス脂肪酸の産生量を削減する(遺伝子組み換え技術により原料植物の組成を変える)
②パーム油などの飽和脂肪酸を使用し、エステル化などの技術を用いてマーガリンやショートニングのような加工油を製造する

といった方法が開発されています。

①の遺伝子組み換え原料を用いる方法では、残念ながらトランス脂肪酸を「ゼロ」にすることはできません。しかし、かなり少なくすることが可能となっており、このような技術的な背景があることから、このたびのFDAの発表に至ったのだろうと考えています。
また、②のパーム油などの飽和脂肪酸を原料とする方法では、トランス脂肪酸を「ゼロ」にすることはできるのですが、今度は「エコナ」で有名になった発がん性が危惧される「グリシードル脂肪酸エステル」の問題を抱えることになります。
ちなみに、「特保」に認定されていた「エコナ」は、トランス脂肪酸とグリシードル脂肪酸エステルの両方の問題を抱えた植物油だったということをご存知の方はほとんどいないのではないでしょうか。

これほど危険な食用油に対し、国がお墨付きを与えていたわけです。「エコナ」の事例は、日本人のトランス脂肪酸への問題意識がいかに低いかということを象徴する出来事だったと思います。そして残念なことに――食料品店に行けばいまもなお、トランス脂肪酸を多く含む多種多様な食用油やマーガリンなどがずらりと並んでいる状況に変わりはありません。多くの日本人が何の疑問も抱かずにこうした食品を利用しているのです。


見ないふり?トランス脂肪酸と病気との関係

精製油の消費量と、糖尿病受療者の伸び率を示す直線は、驚くほど酷似しています。

さて、あなたには次のような疾患がありませんか? 
花粉症、アレルギー疾患、うつ病、がん、アルツハイマー病、パニック障害、片頭痛、糖尿病……これらはいわゆる慢性病や生活習慣病と呼ばれるものです。じつは、これらと食用油には深い関係があるのです。
ところで、あなたは自分が召し上がる「油」についてどの程度意識していたでしょうか? ここまでお読みいただいて、「初めて知りました」ということであれば、あなたが上記の病気にかかっている、あるいはこれからかかってしまう可能性は決して低くはないでしょう。
アメリカから届いたトランス脂肪酸のニュースは、じつは“対岸の火事”などではないのです。図をご覧ください。

この図は、厚生労働省発表のデータをわかりやすく表にしたものです。
これによると、この50年間、右肩上がりで伸びている精製油の消費量と、糖尿病受療者の伸び率を示す直線は、驚くほど酷似しています。
これをただの偶然と考えるのであれば、あなたの糖尿病は、決してよくなることはないでしょう。
つまり、糖尿病の原因のひとつには、まちがいなく食用油の問題が関係しているということです。さらに、糖尿病以外のいわゆる生活習慣病のほとんどが、この油の問題と切っても切れない関係にあると考えられるのです。

「植物油は健康によい」という認識は、まさにいまから約50年まえ、アメリカで発表された「動物性脂肪のとり過ぎが動脈硬化や心臓病を引き起こしており、植物油はコレステロールを下げる」という実験結果がきっかけとなりました。これが植物油神話の始まりです。
しかし、これは事実に反しています。実際いまから約30年まえ、アメリカの国立がん研究所が、「植物油にはコレステロール値や心臓病の発生確率を下げる効果はなく、むしろがんの発生確率を高める」と発表しました。また、前述のFDAも「植物油が心臓病の予防や治療に効果があると宣伝するのは違法」との警告を発しています。にもかかわらず、いまだに「植物油は体によい」と信じられているのは、先進国ではここ日本くらいです。この認識を改めない限り、私たちは多くの生活習慣病から逃れることはできないでしょう。

もちろん、すべての植物油が体によくないというわけではありません。むしろ積極的にとったほうがよいものもあります。そうした「油」への接し方、そして日々の食事で気をつけるべきこと、あるいは新たな食生活の提案をさせていただいています。それらについて、わかりやすく本にまとめました。
興味のある方は、ぜひ一度本をお読みになってください。生活習慣病を克服する鍵はここにあります。

―――――――― Text by 後藤日出夫(Ph.D. GOTO)&健康ジャーナル社