信用を失う食品業界!今一度確認しておきたいトランス脂肪酸の危険な話2

Text by 後藤日出夫

第1回はこちら

第2回 なぜ日本だけがトランス脂肪酸の対応に遅れているのか?

食の安全を監督する人びとの実情を推察する

米国FDAがトランス脂肪酸を全面禁止にしたにもかかわらず、日本の対応が遅れているのは一体なぜなのでしょうか?

その最大の原因が、「国民の健康より経済を優先する政府」にあることは間違いのないところでしょう。本来、公正中立な立場で食品のリスク評価を行うべき内閣府の審議会「食品安全委員会」が、このトランス脂肪酸の問題に関しては充分にその役割を果たしていないことも、政府の方針とは無関係ではないはずです。

審議のない食品安全委員会

7人の有識者で構成される食品安全委員会――おそらく卓越した面々だと思われますが、現実には官僚が都合よく担ぐことのできる“神輿”にのせられた人たちかと思われます。彼らは常に多くの審議すべき議題を抱えているため、各々の議題を自主的に調べるための充分な時間がなく、官僚からドサっと渡される英文文献を期日までに目を通すことで精一杯……審議とは名ばかりである、というのが現状のようです。実際に委員会で行われていることは、「審議」というよりは「了承・容認」といった言葉が適当ではないかと思います(委員会の結論とその審議に用いられた参考文献等を見ると、担当役人の思惑のようなものを垣間見ることができる)。
これほど多くのトランス脂肪酸の有害性に関するエビデンス(科学的証拠)や文献が存在しているにもかかわらず今日の結論に至るというのは、常識的にはまずあり得ないことだと思います。

エビデンスを無視した専門調査会

こうした批判を鎮めるためか、あるいは疑義を払拭するためかはわかりませんが、2012年2月21日には、食品安全委員会主催の「第83回新開発食品専門調査会」が開催されました。これは幅広い有識者が、日本および世界各国のエビデンスや文献などを徹底的に精査し、食品中のトランス脂肪酸にかかわる健康への影響を評価するのが目的でした。

この企画自体は良いものだったと思います。しかし、残念ながらここでもまた多くのエビデンスなどから導かれるべき答えとはまったく異なる“別の筋書き”によって、受け入れがたい結論――「危険性はない」となっています。多くの有識者をメンバーに加えたことで、「ほらこの通り、間違いはございません」というお墨付きを得ようとしたのでしょうか。

いずれにしろはっきりと言えることは、国民の健康(生命を守る)を第一とする世界各国の政府とはまったく異なる方向に国民を導いているということです。こうした根本的な問題を解決しないかぎり、国民の本当の健康は決して守られることはないように私には思えます。


トランス脂肪酸が“危険ではない”とする根拠とは?

日本人にとってトランス脂肪酸は問題なし――
政府や食品安全委員会のこの結論を後押しする存在とは?

それは「御用学者」と呼ばれる人や、一部の科学ジャーナリストといった人たちのこと。彼らの役割は、極端にいえば、国民をミスリードすることです。彼らが安全性を訴えるのに使うのは次の2点です。

Ⅰ.トランス脂肪酸のみならず脂肪酸そのものの有害性に対する誤った捉え方
Ⅱ.日本人のトランス脂肪酸の平均摂取量は少ないので問題なしという論理

上記2点に関連する問題点について述べたいと思います。

■トランス脂肪酸の有害性の誤った根拠を逆手にとるやり口

御用学者や一部の科学ジャーナリストは、「米国の情報を鵜呑みにしてはいけない」といい、そのひとつの根拠として、『危険な油が病気を起こしてる』の著者ジョン・フィネガンの本を用いて、トランス脂肪酸の危険性に関するその内容の“非科学性”を口実にすることが多いように見受けられます。

「米国の情報を鵜呑みにして……うんぬん」は、その思惑が見え見えですので論外としても、ジョン・フィネガンの本は確かに興味本位の非科学的な構成になっているのは事実です(読者の中にはこの訳本の内容を“科学的な事実”と信じている方が多いかもしれませんが、実際には米国FDAがこれをトランス脂肪酸の正しい情報として取り上げる類のものではありません)。

たとえば、ジョン・フィネガンの本では、トランス脂肪酸は変質もせず、ネズミも食べない「プラスチック」のような危険な物質であると記述しています。しかし、本当にトランス脂肪酸がプラスチックのような物質であれば、そもそも消化吸収されることもなく便として排泄されてしまいますし、もし体内に吸収されると仮定しても、まったく反応性のない異物でしかありません。こうした記述は“非科学的”である以前の問題でしょう。
また、「反応性のないプラスチックのような物質である」としながらも、その一方で、「トランス脂肪酸は体内に吸収された後は非常に軟弱な細胞膜を形成する」としています。同化代謝(からだの一部となる)は酵素代謝の中でも非常に特定された物質としか反応しません。したがって、私たちの体の細胞膜を形成することなどは起こり得ないのです。
こうした事実誤認があるがゆえに“非科学的”であるわけですが、それでも、政府が国民に植物油の危険性を伝えてこなかった日本では、植物油の危険性を一般の人たちに伝えるという意味では有用であったと言えるかもしれません。むしろ、その“非科学性”を逆手にとり、「だから本当を危険などない」との詭弁を弄する一部の科学ジャーナリストの無知蒙昧ぶりにはまったく閉口します。

■自分たちにとって都合のよい解釈をして国民を欺く

トランス脂肪酸の定義は、世界的には「コーデックス委員会」(国際食品規格委員会)で定められているように、反芻動物由来の共役二重結合を含むものを除き、精製加工食用油(おもに植物油)に含まれるトランス脂肪酸に限定しています。簡単にいうと、牛などの乳・乳製品、食肉に含まれるトランス型の脂肪酸についてはトランス脂肪酸に含めない、ということです。

にもかかわらず、日本の食品安全委員会では「トランス脂肪酸の由来(牛のトランス脂肪酸なのか、工業的に作られた脂肪酸なのか)が分析上識別できない」ことなどを理由に、これらを同一カテゴリー(分類)に入れて論じようとします。なぜか? そうすることによって、植物由来のトランス脂肪酸の有害性を曖昧にすることが可能となるからです。
たとえ分析上の識別が困難であるにしても、食品製造管理面からその由来を容易に識別できるはず。実際、諸外国では問題なく管理されているにもかかわらず、なぜか日本だけは「分析上無理!」ということに固執しているのです。世界的にも有害性はほとんどなく、むしろ健康上好ましいと認識されている天然のトランス型脂肪酸*と、有害であることが明らかな人工的なトランス脂肪酸を同じカテゴリーで議論しようとすることの意図は明らかであるように思われます。

ただし、EUの一部の国でもこれらを同一カテゴリーに含めて議論する国がないわけではありません。しかし、これらの国では政府が国民にきちんと精製・加工植物油の危険性を知らせているという点で、国民の健康をどのように考えているかにの大きな違いがあるといえるでしょう。
さきほど挙げた新開発食品専門調査会の調査でも、植物油由来の精製加工時に副生するトランス脂肪酸は有害であるが、反芻動物由来の脂質にはそのような有害性は認められていない(むしろ健康にポジティブな研究結果が多い)ことが報告されています。精製加工植物油のとり過ぎの危険性を国民に周知徹底できないのであれば、少なくともトランス脂肪酸の定義くらいは国際的な基準に従うべきでしょう。もし、日本政府の対応が正しいと主張するのであれば、堂々と国際的な定義を変えるように働きかければいいと思います(そんな覚悟はないと思いますが……)。

*反芻動物由来のトランス型脂肪酸には、バクセン酸(体内の代謝で共役リノール酸に変換される)をはじめ、すでに構造が明らかで、健康面でもポジティブな評価がある。

■その他の問題点

●トランス脂肪酸の有害性を限定的なものとし健康への影響を矮小化すること
●「植物油神話」(リノール酸は健康によい)をいまだに信じている国民、および信じさせようとする政府や企業
●トランス脂肪酸を飽和脂肪酸と同程度の危険性と位置づけること
●日本人のトランス脂肪酸の平均摂取量は、WHO勧告の1%以内であるから健康上の影響はないとすること――などを挙げることができます。

いずれも国の方針が変われば解決される問題だと思いますので、国民の健康を第一に考える政府になることを望むばかりです。

《ご存知ですか?「トランス脂肪酸の種類」》
一口にトランス脂肪酸といっても、植物油や魚油など、精製・加工工程で副生されるトランス脂肪酸の数は非常に多く、食品に含まれるトランス脂肪酸のすべてを測定することはできません。そのため、含有量の表示等をする場合には測定可能な主要なトランス脂肪酸を測ればよいことになっています(測定基準あり)。
こうなると、同一の物質であっても測定条件の違いによってさまざまな結果を得ることになります。どのトランス脂肪酸を測定したかで含有量の数値が異なってくるわけです。こうした測定条件が示されなければ、健康影響などについての正確な議論などできません。トランス脂肪酸にかかわる多くのエビデンスも、どの成分を対象にしているかを正しく認識した上で議論する必要があります。 さて、トランス脂肪酸の数はその脂肪酸の二重結合の数(n)によって決まり、[2n-1]の式で求めることができます。
たとえば、二重結合が1つの「オレイン酸」なら[2¹-1]で1つのトランス脂肪酸(エライジン酸)が、二重結合が2つの「リノール酸」なら[2²-1]で3つのトランス脂肪酸が存在します。同様に、二重結合が3つの「リノレン酸」なら7種のトランス脂肪酸が、二重結合が6つの「DHA」(ドコサヘキサエン酸)では63種ものトランス脂肪酸があることになります。
実際の植物油や魚油には炭素数の異なる不飽和脂肪酸が含まれ、それごとに上記のトランス脂肪酸が生成可能ですから、それらすべての総和は膨大な数になります。となると、実際にそれらのすべてを同定することは非常に困難で、それぞれのトランス脂肪酸の毒性等についても検討することができないのが実情です。

―――――――― Text by 後藤日出夫(Ph.D. GOTO)&健康ジャーナル社